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アマン京都──天才建築家のレガシーを色濃く宿す洛北の静謐なる隠れ家 - GQ JAPAN

理想郷

これほどホテルを愛する者たちが、心待ちにした存在があっただろうか。洛北・鷹峯へと向かう風景を車窓から眺めながらそう思っていた。自然を愛し、アジアを愛し、そして日本を愛した建築界の巨匠であり、2018年に75歳でこの世を去ったケリー・ヒルの置き土産。20年の歳月をかけて彼が遺したアマン京都が2019年11月1日、静かにオープンした。

「アマンが京都にできる」と、ホテル通たちの間でささやかれるようになったのは10年以上前だったように記憶している。それからときおり噂話のように話題にのぼるもののアマンリゾーツから公式な発表は一向になかった。しかし、その間もプロジェクトは進み、昨年ついにそのベールを脱いだ。場所は京都の中心から車で30分ほど。金閣寺の北にあたる鷹峯(たかがみね)、鷲峯(わしがみね)、天峯(てんがみね)の通称、鷹峯三山のふもと。江戸初期、琳派の本阿弥光悦が居を構えるなど芸術家たちと深いつながりを持つ地区でもある。

重厚な門を抜けると、車寄せの奥に深い木立がそびえ、リゾートを包み込むように広がりを見せる。訪れたのは2月中旬。葉は落ち、枯れた風情の冬の情景であったが、新緑や紅葉の季節には生命力にあふれ、色彩豊かな異なった表情を見せてくれるはずだ。

アマン京都は日比谷公園の2倍。およそ32万㎡という広大な敷地にたつ。そこは庭であり、森であり、山でもある。かつての所有者が年月をかけて慈しみ、独特の世界観をもって築いた野趣あふれる空間には丹波や岐阜の恵那、奈良の天川村などから取り寄せた銘石が積み上げられ、苔むした様子は古代遺跡のよう。ここが京都であることを一瞬、忘れてしまう。神聖ささえも感じる、この唯一無二の空間こそがアマン京都の神髄。20年ほど前、ケリー・ヒルが初めて訪れたときから夢見たまさに理想郷だ。

なだらかな広がりに点在するのは宿泊棟のほかにチェックイン&アウトを行うアライバルパヴィリオン、メインダイニングとなる「ザ リビング パヴィリオン バイ アマン」、そして車寄せ脇に日本食「鷹庵」、アマン スパなど。敷地には随所に池、禅ガーデンなどがあつらえられ、昼には野鳥の鳴き声、夕刻には遠くから寺の鐘の音が響いてくるのみ。ゲストはこの静謐な空間を心のおもむくままにさまよう贅沢が許される。その中で最も印象に残るのがホテルの中心に設けられたケリーヒル ガーデンだ。この場所を愛し、アマンリゾートとして新しい魅力を宿したホテルへの夢を注ぎ込んだ類まれなる建築家へのオマージュが込められている。樹齢を重ねた藪椿の根本には彼の名前を刻んだ小さなプレートが。彼のレガシーはアマン京都として継承されている。

自然に溶けこむ

ゲストルームは大きく川沿いと山側二つのロケーションに設けられ、全26室。川沿いには2階建ての客室棟があり、1階に楢(なら)、2階に楓(かえで)と名付けられた客室が、また、アライバル パヴィリオンの横には芒(すすき)、敷地の最も奥には蛍(ほたる)と呼ぶ客室が配されている。素材の自然な色味と質感を活かした空間は、装飾を潔くそぎ落としたケリー・ヒルらしいデザイン。同じく彼が手掛けたアマン東京や伊勢志摩のアマネムにも共通するミニマルさだ。障子を思わせるシャープなグリッドが静謐さを与えると同時に窓の外に広がる自然を引き立てる。庭や木々の有機的な美しさを最大限に見せること。そのためのデザインであり、建築であることがよくわかる。

山側のみごとな北山杉の並木に沿い、ケリーヒル ガーデンやダイニング棟を見下ろすロケーションに設けられたのはスイートパヴィリオンの「鷹ヶ峯」と「鷲ヶ峯」の2棟。デザイン性はゲストルームと変わらないがリビングルーム、和室、ダイニングと贅沢な空間に。最上の快適性を追求したベッドはすばらしい寝心地だが、リクエストすれば和室に布団を敷いてもらうことも可能だ。酒井祐二の掛け軸、寺田鉄平の瀬戸焼、大室桃生のガラス器など、アマン京都のためにしつらえたアートワークがミニマルな空間に柔らかな余韻を生み出している。香り高い大ぶりの檜風呂が置かれたバスルームは、外の景色が堪能できる演出が施されていて心憎い。

オールデイダイニングと「ザ リビング パヴィリオン バイ アマン」は中央に暖炉を配した温かみのある雰囲気で、ケリーヒル ガーデンを眺める最高のロケーション。総料理長は1982年生まれ、シンガポール、イギリスなどで活躍した鳥居健太郎。イタリアンをベースに京都の季節感あふれる旬の食材を使ったイノベーティヴなメニューを提案する。革新的とも表現できるオリジナリティあるアプローチではあるものの、食材自体は日本人に馴染みある物も多用する。驚きながら味わいつつもどこかほっとする心地の良い食体験は、オールデイダイニングにふさわしいものだと感じる。シグネチャー的存在はフィッシュ&チップス。「え、フィッシュ&チップス? 」と思わないように。独創的なレシピにうなるはずだ。海外で16年間培った奥深い力量を秘めた料理人だけに、これからさらに真価を発揮するはず。食材の変わる季節ごとに訪れてみるのも食通なら楽しいだろう。

また、日本料理「鷹庵」は名店「吉兆」で23年間の経験を持つ三田絋司を料理長に迎え、四季の移ろいを表現するオーセンティックな料理を提供する。

滞在中の楽しみのひとつがスパとウェルネスだ。天然温泉の大浴場を備えたアマン スパは宇治茶、丹波黒豆、日本酒などの京都産の逸品にコールドプレスの椿、和漢植物由来のオイル、金箔などを加えたオリジナルのトリートメントメニューを用意。静かな環境と、肌あたりの柔らかい温泉浴との相乗効果かスパを体験した夜はいつも以上に深い眠りで、朝まで一度も起きることなくスッキリと目覚めたのは印象深い。

世界展開するアマンリゾーツはその土地土地の文化へのリスペクトをこめたカルチャー体験やエクスカーションをゲストのために用意している。アマン京都では座禅や瞑想、書道といった文化体験や、花街でのお座敷遊びなど京都らしいメニューを用意。非公開の名刹、一見さんお断りの茶屋といったひとつ上のエクスクルーシブさはさすがアマン。実際、訪れた禅寺では若き僧侶の導きで座禅を行い、心おだやかな時間を過ごすことができた。上質な時間と空間がこれほど心身をリフレッシュさせ、リチャージさせるのだということをあらためて実感した。

次のアマンジャーニー

日本3軒めのアマンとなったアマン京都。2023年には北海道にもう1軒開業を控えている。建築はケリー・ヒルの事務所であるケリー・ヒル・アーキテクトが手掛ける。日本を舞台にしたアマンジャーニーのつながりはさらに広く、豊かになり、ケリー・ヒルのレガシーも継承されていくことだろう。

数年前に発行されたケリー・ヒルの作品集ではアマン京都の原型となる建物と空間図が掲載されている。写真を見る限り、庭の存在感は当時からまったく変わらず、ゲストルームのイメージも実際に完成したものと大きくはずれることなく重なる。この場所を愛し、アマンリゾーツの存在意義を誰よりも知る建築家の中では確固としたデザインが当初からあったことがうかがえる。ちなみに写真集の中ではAmaniwaとして紹介されている。ヒルがスピリチュアルな雰囲気を持った庭園からインスピレーションを受け、名付けたとしても不思議ではない。名前は変わっても名建築家の思いを宿した空間は、それだけで尊くオンリーワンの存在だ。

INFORMATION
アマン京都
京都府京都市北区大北山鷹峯町1
075-496-1333
1室1泊¥110,000〜

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March 23, 2020 at 09:56AM
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