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【連載:キボウの消費】01 建築家 田根剛「人の想像力と創造力こそが問われていく」 - Fashionsnap.com

 新型コロナウィルス問題によって、ファッションを取り巻く環境が変化することは間違いありません。「キボウの消費」と題した本稿では、環境がどう変化していくかについて、様々な分野の人に聞いていきます。第一弾は、「Atelier Tsuyoshi Tane Architects」をパリに構え、世界各地のプロジェクトを手がけている建築家の田根剛さんに登場いただきました。(取材・文:ifs未来研究所所長 川島蓉子)

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 田根さんと最初にお会いしたのは、数々の建築賞を受賞したエストニア国立博物館のプロジェクトを進めているさなかのこと。「場所の記憶」というコンセプトの説明に感じ入ったのを覚えています。そんな田根さんが、今とこれからをどう見ているのか、パリとのリモートで聞きました。

 日本での出張中に新型コロナウィルスが広まって足止めを食い、パリに戻ることができたのは4月24日のこと――そう話す田根さんの表情には、やわらかいゆとりのようなものが漂っています。「猛ダッシュしていた日常が歩くスピードに変わり、地に足が着いた感覚があります」。延期になったり止まったりするプロジェクトが半数を占めるものの、建築家が担う設計の仕事はまったく止まっていない。「ゆっくりすることが質を上げるのに役立っています」とにっこり。時間にゆとりがある分、さらに詰めているというのです。

 「ネットによって、あらゆる物事のスピードが上がる反面、どこかに無理が生じていたのではないでしょうか。改めて時間について考えると、スピードは個人にとっての生活のベース。そこに立ち戻り、個人がデジタルとリアルをマネージすることが大事」といいます。放つ空気のやわらかさの理由が少しわかった気がしました。

 

今は未来の見方を考える時間

 田根さんは建築を手がけるにあたり、場所の起源に遡って、起こったさまざまな「記憶」を掘り起こすところから始めます。歴史的に大きなことだけではなく、忘れ去られていた断片的な「記憶」も含めて。そこを土台に、遠い未来へ飛翔する可能性を探っていく。独自のやり方を貫いてきたのです。

 エストニア国立博物館は、1,200mに及ぶ滑走路のような建築――かつてソ連下の共和国のひとつであり、ソ連崩壊時に、ラトビア、リトアニアとともに独立宣言した歴史を持つエストニア。博物館の予定地が、もともと軍用滑走路だったことから、それを「場所の記憶」として活かしたというのです。

 なぜ「記憶」なのか――「記憶」は過去を指すのではなく、「未来を作るための原動力」と捉えているから。「戦争や天災によって失われても、人が生きる強さを持っているのは、『記憶』の力に拠るのです」と田根さんは捉えています。

 その思いは、新型コロナウィルス問題でさらに強くなったそう。今から地続きの未来を思い描くには、原動力となる「記憶」の存在は欠かせないといいます。「大変な日常を過ごしている方の記憶も含め、決して前に戻してはいけない。未来を見なくてはいけないと意を強くしています。今は未来の見方を考える時間であり、そのために『記憶』は大いに役立ってくれるのです」。

 建築だけではなく、人も同様のことと田根さんはいいます。「DNAの中には、その人が生きてきた環境の中で、何をどう感じたかも含め、蓄積してきたさまざまな事柄が入っていて、すべて『記憶』といっていいし、次世代に受け継がれていく。つまり『記憶』は、未来の人を作っていくと言っても過言ではないのです」。

 今という瞬間において、自分が何を考え、どう行動するかが未来につながっていく――そう聞くと、自分が今、興す思考と行動が肝心と、良い戒めになりました。

軍用滑走路を活かして建設された「エストニア国立博物館」 ©Eesti Rahva Muuseum / Courtesy of DGT.

 

デジタルは脳に響き、リアルは心を動かす

 一方、「デジタルとリアルをマネージすること」について、田根さんは新型コロナウィルス問題が起きる少し前から、あえてSNSと距離を置いた生活を送っていたそう。

 「物質として重みがなく、イメージとしての存在がデジタル。物質として質量があり、実体を持つ存在がリアル。前者は脳に響き、後者は心を動かしてくれる。そこを踏まえて日常に取り入れることが必要では」という問いかけに、我が身を顧みて思うところがありました。そしてそこにも、時代の流れを敏感に読み取る田根さんの「感」と「勘」が働いているに違いないと思ったのです。

 最近は、書籍をじっくり読む時間を大切にしているそう。「物質として、一冊の本に注がれている時間は膨大なもの。その"時間の蓄積"に意味があり、読むことで得られるものは、良質で深みがあると感じています」。そういった行為から、未来へ向けてのビジョンが描かれていくに違いありません。

 では、これからをどう見ているのか――「未来へ向かうビジョンは、個人から生まれてくるもの。AIはインプットされた情報の最適化をはかる演算装置であり、社会を変えていく突出したものは出てきません。だからこそ人の想像力に拠るアイデアが、ますます大事になってくるのです」。人の想像力と創造力こそが問われていく。そう聞くと、ささやかでも日常の中で、自分の発想を重ねていくこと、実行に移してみることをスタートしようと、意を強くしました。

田根剛氏が改修する青森県弘前市の「弘前れんが倉庫美術館」。開館を延期していたが、6月1日から事前予約制によるプレオープンを実施する。 ©Naoya Hatakeyama

 

取材・文:川島蓉子
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、『すいません、ほぼ日の経営。』などがある。
1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
お話を聞いた人:田根剛
建築家。1979年東京生まれ。Atelier Tsuyoshi Tane Architects 代表、フランス・パリを拠点に活動。代表作『エストニア国立博物館』(2016)、『新国立競技場・古墳スタジアム(案)』(2012)、『弘前れんが倉庫美術館』(2020)『Todoroki House in Valley』(2018)、『とらやパリ店』(2015)など国際的な注目を集める。 フランス文化庁新進建築家賞、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞、アーキテクト・オブ・ザ・イヤー2019など多数受賞 。ATTA official website:www.at-ta.fr ポートレート ©Yoshiaki Tsutsui

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May 21, 2020 at 11:30AM
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