自分の土地・建物であっても建て替えができない「再建築不可物件」。たいていの場合、その価値はないも同然ですが、内容によっては「お宝物件」となることもあり得るとか。本記事で取り上げる事例では、「お宝物件」になる可能性を承知しつつも売らざるを得なかった、特殊な背景があったようです。(本記事は、川嶋謙一著『誰も知らない 不動産屋のウラ話』より一部を抜粋・再編集して構成したものです。)
「再建築不可物件」だけど…実は新しく建築できる!?
いくら建物が老朽化しても、自分の土地・建物であっても、建て替えができない物件が多くあります。それは再建築不可物件といって、一度建物を取り壊すと建て替えができません。したがって、売りに出しても買い手がなかなか付かないのです。当然、相場より安く売りに出すわけですが、値段の問題ではないと考える人もいます。
この再建築不可物件の内容によってはお宝物件になりうるのですが、ではなぜ再建築できないかというと、建築基準法の条件を満たしていないからです。建築基準法第43条には、建築物の敷地は、原則として幅員が4m以上の道路に2m以上接していなければならない、ということが定められています。つまり、2m未満しか接していない場合は、その土地に立つ建物は建て替えができないことになります。
これは接道義務というもので、建築基準法に則った道路がないところには建物は建てられないということですが、裏通りなどには4m以下の道路が多くありますし、突っ込み道路といって通り抜けできない行き止まりの道路もあります。また、位置指定通路といって、自分の土地を私道として特定行政庁に認めてもらう道路もあります。
しかし一番多いのは、「現行の道路の中心から2m下がったところであれば建物を建てられる」というもので、建築基準法第42条第2項に規定があることから「2項道路」、あるいは道路とみなすということで「みなし道路」と呼ばれています。道路の中心線から2m以上の位置まで下がることをセットバックといいますが、自分の土地であっても、その位置までは建物を建てられないのです。
そのほかに接道義務の緩和措置として、建築物の周囲に広い公園や広場などがあり、災害時に緊急避難できると認められれば、4m道路に2m以上接していなくても建物が建てられる特例もあります(「但し書き道路」)。
このように、セットバックが必要な土地は有効面積が減るため建築できる面積も減り、価格が下がってしまいますが、さまざまな条例を駆使すれば、ほとんどの場合で建物を建てることができます。
ヘリコプターで自宅に帰る!? 「囲繞地」とは
ところが、さらに手強い土地があるのです。囲繞地(いにょうち)というのですが、袋地になっていてまわりがすべて他人の土地で囲まれており、他人の土地を許可をもらって通らないと自分の土地に行くことができない土地のことです。
この許可は囲繞地通行権といって、公道に出るための必要最小限の動線をお金を払って通らせてもらうことを指します。もし隣の人と仲が悪くなって許可がもらえなくなったら、自分の土地にある自宅に帰るのにヘリコプターが必要になる・・・という笑い話があるほどです(実際は囲繞地通行権は裁判所が認めていますが、仲が悪くなると通行料が割高になる可能性があります)。
セットバックが必要な土地にはそれなりの価格がつきますが、道路のない袋地や、道路に2m以上接していない土地で「但し書き道路」の認定を受けられない場所の価値はゼロです。この価値ゼロの土地が、交渉力とツキで「値千金」となるのです。
まず、この土地の所有者と根気よく交渉し、安く売ってもらいます。場合によっては根気は必要なく、「待ってました」とばかりに話がまとまることもあります。実は私が最初に買った戸建ても、億を稼いだ土地も、まさにこのケースでした。
さきほど、隣の人との仲の良し悪しという話をしましたが、隣人と仲が悪いというケースは意外と多いのです。些細なことがきっかけで先祖代々仲が悪く、何かにつけて罵り合い、喧嘩はしないまでも一切口をきかないといったことはよくあります。この仲の悪さが、売りたいという気持ちを加速させるのです。
再建築不可物件の場合、手っ取り早いのは、接道している隣地を買うことです。土地を売りたいときはまず隣の人に話を持っていくのは定石です。土地を生かそうと思えば、隣の人に買ってもらうか、隣の土地を売ってもらうかのどちらかに尽きます。
たとえば隣がお金に困っている老夫婦なら、その土地を買う交渉をする、逆にお金持ちの若い夫婦なら、自分の土地を買ってもらう交渉をするのです。この、ごく当たり前のことが、妬みや確執などによってできなくなっているわけです。中には、「隣には絶対売りたくない」「隣の土地は絶対買わない」という人もいて、定石などあったものではありません。
そんな状況でも、その土地を安く買い上げるのがプロです。まったく違う人が隣の所有者になると、長きにわたり隣同士でいざこざが続き、確執のためか話が進まなかったのが噓のように急展開します。
「最悪な隣人」か「今の家」か…決断を迫られた住人
私が戸建てを初めて買ったのも、ある大家さんから相談を受けたのがきっかけでした。その大家さんは旧知の方で、以前から他の物件への入居者の紹介や更新などもさせていただいていたのですが、「隣人とのトラブルが絶えない物件を売りたい」ということで相談にいらしたのです。
トラブルといっても些細なことで、境界線からエアコンの室外機が1~2㎝はみ出していたことが発端で何年も喧嘩腰となり、しまいには境界石をわざとずらしたとか、隣の雨どいの水が自分の土地まで流れてくるとか、収拾がつかなくなってしまったのです。それが眠れないほどのストレスとなり、ついに手放すことにした、というわけです。おかげで、私はその戸建てを相場以下の価格で買うことができました。
買い上げてから、隣の人に挨拶に行くことにしたのですが、大家さんからは「タチの悪い人だから気をつけて」とアドバイスをされていましたので、ビールを1箱持参して直接私が行くことにしました。ところが行ってみると、その家の旦那様は留守だったので、奥様に丁寧に挨拶をして帰ってきました。
そして翌日、私の会社に、留守だった旦那様が訪ねてきたのです。私が持参したビールと同等の菓子折りをいただき、明るい笑顔でしばらく世間話をして帰っていかれました。とても感じの良い人という印象を抱き、事前に聞いていた大家さんからの情報との違いに驚いたのを覚えています。
このとき、私は気づきました。人間というのは、確執のある相手がいる限り、その泥沼にどんどんはまっていってしまうということ。そして当然、相手が変われば確執もなくなるということ・・・。
大家さんから買い上げたこの物件は、再販に出したところ高い価格で買い付けがあり、売買成立となりましたが、それを知った隣の旦那様はとても悔しがり、「私に売ってほしかった」と嘆いたのです。もうすっかり隣同士の確執はなくなっていたのです。
つまり、この経験でわかったのは、再建築不可物件でも内容によっては宝となりうるということです。
川嶋 謙一
株式会社未来投資不動産代表取締役
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May 06, 2020 at 03:06AM
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