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建築家が旅した、世界のたてもの探訪記【第4~6回】 - ELLE

現代建築に「ノスタルジー」が生まれるとき

アムステルダム駅で自転車を借りた。目指すはオランダの建築家ユニット、MVRDV設計の「WoZoCo」 (1997)。時折道を尋ねるも、郊外へ向かうほどにお年寄りの割合が増え、英語が通じなくなる。仕方がないので雑誌を見せて「ここに行きたい」とジェスチャーすると……写真を見るなり半分寝ていたじいさんが「アー!」と大声をあげて大ぶりなジェスチャーを始めた。なんだ。なんだこれは。

目的地へ近づくにつれ、尋ねる人の興奮度が上がっていく。まるで自慢の息子でも見せるように、「おい東洋人、お前わざわざ来た価値あるぜ」てなノリで庭先の柵から出てきて、身振り手振りで行き方を教えてくれるのだ。そして現れる異形の建築。不安な異国で1人自転車に乗って辿り着いた達成感もあれど、道中人々の反応を通しながら、古典建築にも全く負けない現代建築の圧倒的な存在感を見たのである。「WoZoCo」は通称「100戸の高齢者用集合住宅」。法規上87戸が限界のボリュームの壁面に13戸くっつけて、強引に100戸まで増床した建物だ。屈折した設計精神がポキポキと折れ続けて一周した突端にあるような、複雑で単純で、幼稚で知的なデザイン。僕はその一周回った直球ぶりに頭では感動していたものの、地域や市民に愛される建築かどうかは懐疑的だった。

やはりどう見てもこの建築は周囲から浮いていた。驚くべき形。派手なバルコニーの色。継承すべき背景のない新興住宅地とはいえ、街並みに馴染ませる意志などありゃしない。現地のノスタルジーを無視しながら、増床という合理性をバカバカしいほど実直にオーバードライブしてできあがっている。にも関わらず、あの異常なテンションで行き方をなんとか教えてくれようとする周辺住民たちは、明らかにこの建築を軸にした新たなノスタルジーを感じ始めている。

それまで建築はシリアスなものだと思っていた。しかし誰もが「笑ってしまう」ほどの直截的なアイデアと実現力には、“出オチ”なんぞには収まり切らない長期的に「愛してしまう」強さがあった。突き出た住戸の下で、軒天と地面にテニスボールをバウンドさせて遊ぶ子供をしばらく眺めながら、希薄な場所性に寄りすがるナイーヴな建築よりも、はるかに爽やかで凛々しい建築があることを知った。そしてこの僕にも、たった一度だけ訪れた遠く離れた何でもない住宅地に、強大なノスタルジーが芽生えたのである。行けるならすぐにでも飛んで行きたい。

写真 オランダの設計集団、MVRDV初の住宅作品となる「WoZoCo」。13の住居がカンティレバーにより増床された。

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February 23, 2020 at 08:00AM
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